c4j輪読会 貧乏人の経済学 第4回 第6章 レジュメ
第6章 はだしのファンドマネージャ
リスクと保険に関する話
貧乏な人はリスクの影響が大きく、ちょっとした不運が悲惨な結果を招くことがある
【インドネシアのティナさんの事例】
若い頃には衣料工場で勤務、結婚後は夫の衣料事業を手伝い、従業員4人を雇い事業に成功
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信頼していた取引先に2000万ルピアの不渡り小切手を掴まされた
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警察に相談したが、400万ルピアを取り戻すために450万ルピアを賄賂で払った
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夫婦は立ち直ろうとして政府の融資プログラムから1500万ルピアを受け、衣料取引業を初めた
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ショーツを購入して包装する大型注文が入ったが、小売業者からキャンセルされ、在庫を抱えた
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離婚して、ティナさんは実家に戻り、身障者の母、兄弟2人、子供4人とスラムに住む。長女は誘拐されてから精神的な問題があり、かなりの世話が必要
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一家はなんとか飢えない程度に稼いでいるがお金はいつも不足
感想:tks.iconリアルウシジマくん/ナニワ金融道すぎる..
貧乏のもたらす危険
貧乏人はヘッジファンド・マネージャ
→大量のリスクを抱えている(けど、所得水準が違う)
→ヘッジファンド・マネージャで損失を100%自分で負担している人はいない
→また、貧乏人は事業のための資本を全額自分で調達するのが通例
貧乏人の大半は小事業や農場運営
→18カ国では、都市貧困者の平均50%が非農業事業、地方貧困者で耕作事業を営んでいる割合は25~98%(非農業事業も営んでいる)
→貧乏人の耕す畑の殆どは灌漑されておらず農業収入は天候に大きく左右され、所得リスクにさらされている
日雇い労働をしている貧乏人も多い
→地方部では半分、都市部では4割
→今の仕事が終わったら、次の仕事があるかどうかは分からない
→事業に問題が起こったら真っ先に切られる
→正規労働者よりも年間労働日数が少なく、大半は年の数日しか働かない
→インドグジャラート州では、平均年254日、底辺1/3は137日のみしか働かない
→一方、給与労働者は354日、自営業者は338日
感想:働き過ぎ……Koichiro Shiratori.icon
日本と比べてめちゃめちゃ農家さん多いですね。。kazu.icon
農業所得は大規模な農業災害が無くても年ごとに大きく変動
→国が貧しくなるほど、農業所得の変動率は大きくなる
→インドの農業賃金は、保険に入り補助金ももらえ、社会保障プログラムの恩恵を受けるアメリカの農家より22倍も変動
→農産物価格もすさまじく変動
→農民たちは食料価格より原材料価格のほうが大きく上昇したと思う。
→労働者は農民たちがお金を貯め込むから仕事が見つからない←??
→都市住民は食費の捻出に苦闘
→問題は価格水準だけでなく不確実性にある
貧乏人にとってのリスクは所得、食べ物だけでなく、健康、政治的暴力、犯罪、汚職もある
→富裕国では一大事とされるような出来事も途上国では問題にはならない
→リーマンショック後、世銀総裁が世界の指導者に途上国で人道危機をもたらすから貧困者は農産物市場や職を失うと警告
→インドで貧乏人が世界危機にどう影響されたか取材したところ、都市への出稼ぎが減っていないという話(実際はそうでないが)を聞いて、世界経済の停滞で苦しんだ事実は見つからなかった
→都市での仕事はあり、村より収入もよく、目先で重要なことは機会であると結論
→日々直面するリスクの総量と比べたら世界危機は微々たるもの=毎年がすさまじい金融危機のさなかにいる
感想:伝わる表現!Koichiro Shiratori.icon
貧乏人は同じ規模の不運でもそうでない人より受ける被害はずっと大きい
→貧乏人にとって所得が大きく減ったら不可欠な支出まで割を食う(食事の量を抑える)
→今日の所得と未来の食事の関係がS字形なら貧乏人が1回不運に見舞われる影響は、一時的な不幸よりずっとひどいものになりかねない
ティナさんの場合、明日の所得と今日の所得の関係はS字形
→利益を上げるための最低限の規模がある
→詐欺の前は収益性が高い、詐欺の後は収益性が低い活動しかできない
→不運が一つあるだけで永続的な結果が生じ、中産階級への道から、いきなり永続的な貧乏に突き落とされる
→このプロセスは心理的なプロセスでも強化される
→希望の喪失、楽な出口なんかないとう感覚があり、坂道をまた上ろうとする自制心を持つのは困難
→リスクに直面すると不安→憂鬱→生産性を下げる
→貧困とコーチゾル(ストレスの指標)の水準には強い相関
→コーチゾル水準は直接的に近く力と意思決定力を阻害する
→ストレス条件下で経済的に合理的な選択をしにくくなる
コルチゾールは、副腎皮質から分泌されるホルモンの一つです。主な働きは、肝臓での糖の新生、筋肉でのたんぱく質代謝、脂肪組織での脂肪の分解などの代謝の促進、抗炎症および免疫抑制などで、生体にとって必須のホルモンです。例えば、その炎症を抑える働きから、ステロイド系炎症薬として治療にも広く使われています。
また、ストレスを受けたときに、脳からの刺激を受けて分泌が増えることから「ストレスホルモン」とも呼ばれています。分泌されたコルチゾールは各標的器官にて効果を発揮しますが、その濃度が高くなると、脳のネガティブフィードック機構によって自身の分泌が抑制され、その濃度を低く保つように制御されています。しかしながら、過剰なストレスを受け続けると、この機構が壊れてコルチゾールの分泌が慢性的に高くなり、これがうつ病、不眠症などの精神疾患、生活習慣病などのストレス関連疾患の一因となることが分かってきています。その対処法のひとつとして、プロバイオティクスによるストレス緩和作用が近年注目されており、その摂取によりストレスに伴うコルチゾールの過剰な上昇が抑えられることが報告されています。
https://scrapbox.io/files/614c58a993b217002112b85c.png
感想
tks.iconハイリスク・ローリターンというのは人生ハードモードすぎる
これまでの章で、援助についての検討をたくさんやったから、ここからは「ハードモードなので、ほかから手助けして難易度を下げよう」モードの話をしてる気がする
tks.icon引きこもりとかみたいに、すぐ死なないけど働かない場合はぜんぜん違う話になるけど、そのほうが解決の難易度が高い(生きるか死ぬかの貧乏人の場合は低利で融資とかで解決するけど、働けない/働く気がない人の場合は別の話が必要)
kazu.iconストレスかかるくらいピンチな場面こそ合理的な判断が必要にも関わらず、その状況下ではしにくくなるって中々難儀ですね
Junna.icon仕事が安定的に供給される(少なくともある程度バッファになる)会社というシステム、良し悪し多いけそこは良い部分。仕事を探す可動コスト、事務手続きコストはは馬鹿にならないので、給与の多寡だけ見た安易なフリーランス信仰はそこも見るべき
Junna.icon生理学的に貧すれば鈍するが立証。みもふたもない。
Koichiro Shiratori.iconこれは身につまされる話……>コルチゾール
tks.icon 貧乏人を軍隊で引き受けるメソッドはこの場合は合理性ありそう
ヘッジをかける
リスクに対応するため、貧乏人ができること
→もっと働こうとする。しかし、不景気時に貧乏な労働者がたくさん働こうとすると賃金が下がることもあり、稼ぎが減ったときに働くというのは有効ではない
→最高のやり方は分散ポートフォリオを構築
→貧乏人は金融資産だけでなく活動も分散
①一世帯が従事する職業の数がやたら多い
→西ベンガル州では、畑を一区画耕作する農民でも農業には4割しか咲かない
→メジアン世帯は働き手3人と7種類の職業
→どれかの活動が停滞しても他の活動で切り抜けられる
②畑も大きな畑一つでなく、違った場所に複数持つことでリスク分散(病害虫、干ばつ)
③一時的な出稼ぎも家族の一部のみが行くことで一家の富が出稼ぎ者一人の仕事だけに左右されず、一家と村との結びつきも保たれる
④新しい生産性の高い品種が手に入ってもそれを採用せず、伝統的な技術を使うことで追加投資を抑えることができ、新しい種子を使った作物がダメになる可能性も排除できる
⑤結婚もリスク分散で利用し、出身世帯と嫁ぎ先の世帯の結びつきをつくる(困ったときに頼れる)
⑥子供をたくさん作る
貧乏人のリスク対応手法はずいぶん高くつくものばかり
→インドでは貧困農民は保守的で低効率のやり方で農業を行うため、農場の利益率と降雨の変動性の間に相関がある
→金持ちの農場は収穫を失っても平気なので積極的にリスクが取れるため、もっと豊かな農民は相関がない
貧困農民の別の戦略
①だれかが小作人の一人になることでリスクを下げる一方、インセンティブも下がり畑の効率が下がる
②たくさん仕事を掛け持ちするのも効率が悪い→技能と経験を身につける機会を逃す
貧乏な人が負うリスクは打撃が起きたときに高く付くだけでなく、悪いことが起こるかもしれないという恐れだけで、貧乏人は自分の可能性を十分に活かせなくなり、弱体化する
感想
tks.iconダメな仕事がたくさんあってもあんまり意味ないのだけど、スタート地点が厳しいとそうなりがち
Koichiro Shiratori.iconこれらをリスク対処法として考えたことはなかったので目から鱗
kazu.icon7つの職種の内訳ってなにか気になりますね...
Koichiro Shiratori.iconマルチタスク的なのは技能と経験の観点から効率が悪い、多くの場合はそうかも。ちょっと違うけど、なるほど
Junna.iconリスク分散の話に、”専門性を磨く”という概念が出てこないのは高付加価値jobがないからなのか。日本の採用基準とは逆。jobhopperの概念が無い世界
助け合い
もう一つのリスク対処方法
→村人がお互い助け合う(インフォーマルな保険)
→ネットワーク全員に影響するショック<個人に対するショック
→お互い様
→クリストファー・ウドリーによる調査はその威力と限界を示した
→ナイジェリアでは、村人によるインフォーマルな融資により、個人が抱えるリスクを減らすのに大きく貢献する一方、家族は打撃が受けたときには消費額の下落に苦しみインフォーマルな連帯が実現できることには限界があることが分かった
→他の研究でも同じで、打撃の吸収には役立つがそれが提供する保険は完璧にはほと遠い
→特に健康上の打撃については保険が欠如(インドネシア、フィリピンの調査)
→ジャワ島のエンプタットさんの事例では、夫と息子が病気。10万ルピアの借金が100万ルピアになった一方、娘よりTVを贈られた???
→贈り物がどんな形なのかは受取者(母)はとやかく言えない、医療支出を誰も助けてくれないのは普通
→モラルハザード?
なぜ重い病気にかかった人を助けないのか?
①病気になるというのは選択の余地はない
②将来自分も助けてもらうかもしれないから助けるという発想(道徳的な義務感)では捉えきれない
→基本的な共有行動を超えたもの。病気の人を助けるには、ずっと入念な社会契約が必要
保険は主に困った人を助けるという道徳的な義務
→ナイジェリアの村、ジャワ島エンプタットさんの娘の事例から、自分の手にあまるような支援には手を出さない
感想
Koichiro Shiratori.iconウドリーは文化人類学者? 開発経済学者? 面白い調査。※論文は経済学のジャーナルに載っているよう
貧乏人向けの保険会社はないの?
貧乏人がなぜもっと正規の保険にアクセスできないのか?
→発展途上国にはほぼない
→マイクロファイナンスがあるから、貧乏人向けの保険も有望では?
→国際機関や大規模財団は貧乏人向けの保険開発を奨励してきた
①貧困国では保険会社を規制したり被保険者を監視することが難しい
→医師は薬を出したがる、患者は何でもいいから治療を求める
→破産への第一歩
②「逆選択」
→保険金を今直ぐ受け取りたいために保険に入る人を保険会社が見分けられなければ、全員の保険料を上げるしかない
→自分は保険は不要だろうと思う人は加入しない
→アメリカでは雇い主経由でないかぎりまともな値段で健康保険は買えない
→やすい健康保険は強制加入にすることで保険会社はハイリスクの人々だけ抱え込むことはなくなる
③露骨な詐欺
→病院が保険会社にでっちあげの請求、実際の医療費よりはるかに多い金額を患者に請求
→農民が架空請求
→インドの金融セクターで牛の保険を提供しようとする試みが大惨事になった
→保険会社が牛が死んだ証拠として耳を要求した所、牛の耳の市場ができた!
しかし、保険をかけやすいリスクも有る
→天候保険(人の判断、モラルハザード、詐欺が入り込まない)
→大病や事故による怪我に保険をかけることも可能だが、残る問題は逆選択
→それを避けるために健康以外の理由でまとまった大量の人々から恥emルのが肝心
【マイクロファイナンスが健康保険の提供した事例】
→健康問題で借り手が債務不履行に陥ることを避ける
→顧客から保険料を徴収することも簡単
→インドSKSマイクロファイナンスが健康保険プログラム導入
→顧客が反抗したので、最初の融資更新時に義務付けることにした
→一部の顧客は融資を更新しなかったので、SKSのシェアが下がった
→融資を受けた顧客も保険から逃れようとした
→最終的に希望者のみにしたら、逆選択とモラルハザードの問題にさらされた
→新規顧客には保険を出さないよう保険会社がSKSへ要請
【インドでの天候保険の事例】
→マイクロファイナンスを通じて販売
→極めて低い加入率(2割)
→加入した人も損失額の2,3%しかカバーしない保険
なぜ貧乏人は保険を買いたがらないの?
①政府が市場を台無しにした(需要ワラー)
→政府、国際機関がそれを提供しすぎている
→お節介な連中が助けるので保険は不要
→でも政府は大規模災害にしか介入しない
→貧乏人には不十分
②貧乏人は保険の概念をわかってない
→保険の基本的な考え方を理解できない?
→タウンゼントの実験では理解した
→コンセプトは分かるが買いたがらない
→市場が提供できるような保険は本当に危機的なシナリオに対してだけ人々を保護するようなものに限られてしまう
③保険会社に対する信用が欠如
→保険会社の対応も問題(SKSが胃の感染症費用を負担しなかった例、夫が死んだが1日も入院しなかったので支払いを拒絶した例)
→天候保険でも降雨計のところで降雨量が基準以上なら保険金はもらえない
④時間の不一致
保険金をもらえるのは未来(しかも不愉快な未来)
→なるべく考えたくない
貧乏人が背負うリスクにこたえるには政府の行動が必要
→政府が貧困者の保険料を部分的に肩代わりする
→ガーナの天候保険の成功例
→人々が保険の仕組みを理解し市場が拡大すれば政府の補助金も減らせる
→そうならなくても貧乏人がリスクを追わないで済むことにより得られる潜在利得を考えれば、公共の善を促進するために公共の資金を使う場所としては素晴らしい例ではないか?
感想
tks.iconパッとしない人ほどマルチとかにハマる例のような気がする
Koichiro Shiratori.icon救いのあるラスト
Junna.iconリスクが多いと人間がアホになるのであれば、”公助”するほうが最終的には安上がりになるはずだが?現状モラルハザード論者のが多そう。